4.評価にあたって留意すべき事項
(1)基本的事項
原則的に総論に準じて行う。ただし、迷走神経の直接電気刺激装置は、体内完全植込みのハイリスク機器であること、オンデマンドや時間設定による定期的な刺激でなく常時的に刺激を行うこと、刺激条件によっては過度の循環器系の応答をもたらすこと等からシステムの原理、装置の仕様、使用方法等を詳細に説明すること。体外に置かれる装置についてはこの限りではない。
(2)リスクマネジメント
原則的に総論に準じて行う。その中で、重要なハザードとして(1)過度の循環器応答(徐脈、不整脈、低血圧等)(2)連続刺激による神経損傷(3)ソフトウェア誤作動への対応を含めて検討すること。
本装置は患者に継続的に使用される装置であるため、日常の行動、移動環境、皮膚・臓器・器官の圧迫、装置の騒音、振動、荷重負担、アラーム、電磁波・低温等の環境等の与える影響についても検討すること。体外に置かれる装置については、日常の行動、移動環境、皮膚・臓器・器官の圧迫、荷重負担、アラーム、電磁波・低温の項は、この限りにない。
(3)非臨床試験原則的に総論に準じて行う。以下は対応する総論に対する特記事項である。
1)Invitro評価
①神経機能修飾方法の妥当性
・作用部位の設定:刺激部位の差異は主作用を得るために必要な刺激条件と副作用の出現頻度や程度と関係するため、迷走神経刺激の詳細な部位を特定することが望ましい。
②神経系に作用する装置部分の性能、安全性、信頼性
・刺激方向の設定(バイポーラであるかモノポーラであるか、モノフェイジックかバイフェイジックか):神経束に3つ以上の電極を接触させ、2つの電極で刺激を行い、他の電極を用いて陽極ブロック等の方法を用いて求心性又は遠心性のみの刺激を行う設定をする場合がある。その場合には、刺激が意図する方向と意図しない方向にそれぞれどの程度伝達されるのかを見積もることが望ましい。
・パルスの各フェーズにおける注入密度、注入量、周波数、波形とduration等(電極の場合には、電荷注入密度、注入電荷量、最大電圧、注入電荷のバランスをとる機能の有無と種類、複数の電極における同時刺激時の安全性):神経束に3つ以上の電極を接触させた場合の同時刺激時の安全性評価を行うことが望ましい。
③刺激制御装置の性能、安全性、信頼性
・患者の状態に応じた刺激制御機構:迷走神経刺激に伴う過度の循環器系応答を把握した際の神経刺激条件の変更機構・アラーム、徐脈に対するペーシング等のバックアップ、不整脈時のアラームを備えること。電極インピーダンス異常時の神経刺激条件の変更機構・アラーム、異常な神経刺激条件の検出・アラーム等の必要性は合理的な根拠に基づいて検討すること。
・患者への負荷を計測又は推定出来るシステムの付与:心拍数測定等による過度の循環器系応答の把握ができるモニターを備えること。定期的電極インピーダンス測定等の必要性は合理的な根拠に基づいて検討すること。
・目的に応じて設定した装置制御プログラムの妥当性:患者の状態に応じて制御プログラムを外部プログラマによって変更可能であることが望ましい。
④エネルギー関連装置(電池、経皮エネルギー伝送装置、電気コネクター、ケーブル等)の性能、安全性、信頼性
・体内電池を含めた電池容量、電池寿命及び再充電回数の限界の妥当性:電池容量低下にともなう不適切な迷走神経刺激治療は心不全の悪化につながる可能性があるために、電池容量の低下に対するアラーム機能、バックアップ電源機能、定期受信時のモニター機能・緊急充電機能等を検討すること。
・ペーシングや除細動等の他の電気刺激装置との併用時(同一装置が多機能である場合を含む。)における他機能との残存電池容量の合理的分配についても検討することが望ましい。
・ペーシングや除細動等の他の電気刺激装置との併用時(同一装置が多機能である場合を含む。)において、ある機能が他機能に影響しないこと。またある機能の電極破損(短絡、断線)時にも他の機能に影響しない機構を検討することが望ましい。
⑤その他、装置全体に求められる性能、安全性、信頼性原則的に総論に準じて行う。
2)Invivo評価
・刺激効果確認試験:迷走神経刺激による心不全治療の真の刺激効果は生存率の改善であるが、生存率との改善との関連がすでに知られている種々の代理エンドポイントの改善によって効果の確認とすることも検討する。その場合、複数の比較的独立した代理エンドポイントがいずれも改善することを示すことが望ましい。代理エンドポイントとしては、左室機能(左室駆出率、左室径、左室重量等)、血行動態(心拍出量、左室拡張末期圧等)、神経体液性因子(ノルエピネフリン、エピネフリン、アンジオテンシン、BNP、TNF-α等)、自律神経機能(心拍変動、圧反射感受性等)から選択し組み合わせて用いることができる。代理エンドポイントの選択に当たってはその指標を選択した合理的理由を記載すること。
・植え込み前後での神経機能評価:迷走神経機能は主としてその効果器応答で評価される。しかし効果器応答の評価方法が十分に確立していない場合には、電極装着部位より上流よりの電気刺激による下流への刺激伝達の程度によって評価することも検討する。これらの評価では植え込み前の同種の評価結果をもとに比較検討を行う。
(4)臨床試験(治験)
1)医療機器の臨床試験の実施の基準(医療機器GCP)の遵守原則的に総論に準じて行う。
2)評価原則的に総論に準じて行う。
3)治験計画書
①基本的な事項原則的に総論に準じて行う。
②治験対象本装置は、原因にかかわらず、重症化した心不全患者を対象とする。重症
心不全の治療においては一般に複数の治療法を併用し、個々の既存治療法はそれぞれ有効性が認められているものの予後は不良である。本装置に対する治験対象は他の心不全治療との併用を排除しない。対象者はNYHA機能クラスや左室駆出率等の重症度によって選択する。(選択基準は一律に定めない。)
③使用目的と適応条件本装置は重症化した心不全患者において悪化している自律神経バランス
を改善し、心不全の進行を防止してその予後を改善することを目的として使用する。
④症例数と実施期間原則的に総論に準じて行う。フィージビリティ試験を各症例について6~12か月行った後に、次の段階の試験に進むことが望ましい。
⑤エンドポイント設定a)安全性
迷走神経の刺激による心臓以外への臓器の作用として起こる可能性のある有害事象としては、嗄声、咳、息苦しさ、嚥下障害、のどや首の違和感、のどの痛み、吐き気、嘔吐等が知られている。これらのうち、咳、のどの痛み、嗄声、嚥下障害等は迷走神経刺激によるてんかんの治療においても見られている。これらのうち呼吸困難、嚥下障害や吐き気、嘔吐にともなう摂食量の低下が生じる場合は、迷走神経刺激治療を行うべきではない。
b)有効性迷走神経刺激による心不全治療では、総論記載の「神経機能」を「心機
能(関連する神経体液性因子の濃度を含む。)」と読み替える。本装置による治療は基本的に既存治療法に追加するものであるため、対照は既存治療法とすることが望ましい。
主要エンドポイント
迷走神経刺激による心不全治療では真のエンドポイントは生存率(全死亡率、心血管死亡率、突然死の率)、入院回避率(全入院、心不全による入院)、心移植や補助人工心臓装着率、心移植候補への登録率やこれらの組合せとすることが多いが、治験の相によっては代理エンドポイントを用いた解析を検討することができる。代理エンドポイントとしては、左室機能(左室駆出率、左室径、左室重量等)、血行動態(心拍出量、左室拡張末期圧等)、運動機能(最大酸素摂取、最大運動負荷、6分間歩行等)、呼吸機能(換気/代謝比、酸素摂取/負荷比、運動時や睡眠時の周期性呼吸)、神経体液性因子(ノルエピネフリン、エピネフリン、アンジオテンシン、BNP、TNF-α等)、自律神経機能(心拍変動、圧反射感受性等)より適宜選択して用いることができる。これらの中で対象とする心不全患者の重症度に応じて、真のエンドポイントとの相関や因果関係の大きさを勘案し、なるべく独立した複数の機能を選択して代理エンドポイントとして用いることが望ましい。代理エンドポイントの選択に当たってはその指標を選択した合理的理由を記載すること。代理エンドポイントによる解析の場合でも、有害事象に関する検討と組み合わせて評価することが望ましい。
副次エンドポイント
心不全患者における質問紙法によるQOL評価方法(CHQ、MLHQ、QUAL-E、MacNew)は種々開発されており、迷走神経刺激による心不全治療においてもそれらを適宜組み合わせて使うことができる。また副次エンドポイントに加えて、サブグループ解析を行うことが望ましい。特に他の治療法との組合せに関するサブグループ解析は有用な情報を与える。
5.試験結果の報告(構成内容)
原則的に総論に準じて行う。 |