1.はじめに
近年わが国では高齢化に伴い大腿骨近位部骨折などの下肢の骨折が増加している。この骨折は、自立性を喪失しうる重大な外傷であり、低侵襲で正確に治療することが求められている。下肢骨折の治療において、低侵襲に金属内固定材料で正確かつ強固に固定できれば早期離床が可能で、合併症を防ぎ、患者の自立性を維持でき、治療期間の短縮と再手術の減少により医療費節減にもつながる。しかしながら、骨折整復が不完全であれば優れた内固定材でも強固な固定が困難で、三次元的に正確な骨折の整復がすべての治療の基本である。
現状の骨折整復操作においては、(1)骨折部の状態を2次元画像から推定しているため “整復精度“に限界があること、(2)整復確認のためX線透視を繰り返すことによる“X線被曝“(医療者と患者)があること、(3)牽引・ねじり操作を繰り返すため“労力を要する(非力な術者には負担が大きい)“こと、などの問題点が挙げられる。このような状況下、整形外科ナビゲーション領域での新たな機器開発が行われており、整形外科領域で必要とされている各種骨折手術用ナビゲーションや骨折整復支援装置などが開発され、臨床研究の緒に就いている。
しかし、わが国においてこれらの革新的な医療機器の開発研究は盛んに行われているが、臨床応用への展開は、諸外国に比べて遅れていると言える。その理由として次世代医療機器の臨床応用にあたり、明確なる評価指標がないことが一因と考えられる。このような状況を踏まえ、骨折整復支援装置について科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を、適正かつ迅速に進めるために、本評価指標を作成した。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、下記に示す骨折整復支援装置を対象とする。
(1) 下肢牽引手術台の足部牽引装置に駆動装置を付加したもの(医師による操作を機器の作用点で再現する製品)
(2) 術中の X 線透視画像を参照しながら医師が下肢を牽引・回旋する動作に装置が受動的に追従して力の補助を行なうもの(同上)
(3) 術前又は術中のCT画像又は三次元X線画像(3DXR 画像)に基づいて医師が整復目標を決定し、医師の操作下に能動的に下肢を牽引・回旋整復するもの(同上)
(4) 術前又は術中のCT画像又は3DXR 画像に基づいて医師が整復目標を決定し、整復動作計画を機器が計算し、医師の承認下で自動的に下肢を牽引・回旋整復するもので、骨折両端骨片に刺入した金具を把持し、そこに整復力を加えるものを含む。(機器が提示した動作計画を医師がリアルタイムで許可することにより作動し、かつ事前に医師により入力された情報を反映してナビゲーションシステムに情報が提示される製品)
3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい機器を対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
骨折整復支援装置の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の適切な関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
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