歯周組織治療用細胞シート

ガイドラインID 2011-HN-RE-012
発出年月日 2011-12-07
発出番号 平成23年12月7日付薬食機発1207第1号
WG名
制度名
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

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英文タイトル
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GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
ヒト由来細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成20年2月8日付薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)、平成20年9月12日付薬食発第0912006号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に示されているところである。本評価指標は、歯周組織破壊を伴う歯周疾患(歯周炎)等の治療を目的として適用される医療機器であって細胞シート状の製品(支持体が含有された製品を含む。)について、上述の基本的な技術要件に加えて留意すべき事項を示すものである。

2. 本評価指標の対象
本評価指標は、歯周組織破壊を伴う歯周疾患(歯周炎)等の治療を目的として適用されるヒト骨膜細胞加工医療機器、ヒト歯根膜細胞加工医療機器、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞加工医療機器及びヒト脂肪由来間葉系幹細胞加工医療機器のうち細胞シート状の製品(支持体が含有された製品を含む。以下同じ。)について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。現時点ではヒト ES 細胞、iPS 細胞等の多能性幹細胞由来の製品及び異種細胞・組織由来の製品は本評価指標の対象とはしない。
なお、開発する製品が医療機器に該当するか判断し難い場合には、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室に相談すること。

3.本評価指標の位置づけ
細胞・組織加工医療機器の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩であることから、本評価指標が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。
従って、本評価指標は申請内容に関して拘束力を有するものではなく、個々の細胞・組織加工医療機器についての試験の実施や評価に際しては、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及び国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.用語の定義
本評価指標における用語の定義はヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及びヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 歯周組織:歯の機能を支持する歯の周囲の組織。歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨からなる。歯の頸部を取り囲み歯槽突起を被覆する歯肉、歯根と歯槽骨との間に存在する歯根膜、象牙質の表面を覆いシャーピー線維を内部に封入するセメント質、さらに歯槽を形成し、シャーピー線維を骨内に埋入して歯を固定する歯槽骨である。
(2) 硬組織:口腔内の硬組織は、歯か歯周組織に分類される。歯に属すものは、歯の本体をなす象牙質と歯冠部の象牙質を被覆するエナメル質である。歯周組織に属するものは、歯を支える歯槽骨と歯根部の象牙質を被覆するセメント質である。従って、歯周組織再生の対象となる硬組織は歯槽骨とセメント質となる。
(3) 歯周基本治療:歯周病に対する治療の一つ。歯周外科手術に先立って行われる。歯周基本治療の主目的は、原因である細菌性バイオフィルム(デンタルプラーク)のみならず様々な誘因を除去することにより、歯周組織の炎症を取り除き、歯周病の進行を停止させることにある。歯周病治療における中心的な位置づけをなし、
初期治療(initial preparation)とも呼ばれる。
(4) 細胞シート:細胞同士、または細胞と支持体が結合してシート状の形態を呈したものをいう。
(5) 支持体:細胞をシート状に形成するための足場となるものをいい、移植・投与される細胞シート製品に含有されるか否かを問わない。なお、支持体の原料として生物由来の原材料が用いられる場合もある。
(6) 組織付着療法:上皮組織あるいは結合組織の歯根面に対する付着(アタッチメント)を促す歯周外科手術を指す。フラップ手術がこれに含まれる。
(7) 臨床的アタッチメントゲイン:上皮組織および結合組織の歯根面に対する付着(アタッチメント)の獲得。臨床的には、上皮組織と結合組織の付着の違いを区別することは出来ない。歯周組織の炎症などによりアタッチメントが喪失し、そのレベル(歯肉溝あるいはポケットの底部)が根尖方向に移動することをアタッチメントロスといい、一度喪失したアタッチメントが歯周治療などにより同レベルが歯冠側へ移動することをアタッチメントゲインという。
(8) 歯槽骨(同義語:歯槽突起):上・下顎骨のうち歯槽を構成し歯を支持している部分。解剖学的には上顎骨の歯槽突起、下顎骨の歯槽部をさす。歯槽骨の厚さは、前歯部では、前庭側の骨質が薄く、歯根の外形に一致した骨面の豊隆歯槽隆起がみられ、歯槽壁が欠如している部分もある。舌側は、一般に歯槽壁が厚く、下顎ではいっそう厚くなる傾向が強い。歯周組織再生を評価する上で、規格 X 線写真による新生歯槽骨量の計測は、臨床上最も客観的な指標となり得る。
(9) プロービングデプス:歯周プローブを用いて歯肉溝やポケット内を探索すること。プローブ挿入圧は 20~25g 前後で、アタッチメントレベル、歯肉縁下のプラークや歯石の有無、病的歯根面の形態を知ることができる。歯軸に平行に上下的に動作する垂直的プロービングと、根分岐部病変部において頰舌側から挿入する水平的プロービングがある。プロ-ビングにより計測された歯肉溝あるいはポケット底
部から歯肉縁(歯肉の最歯冠側の位置)までの距離をプロ-ビングデプスとよぶ。
(10) 歯肉退縮:辺縁歯肉の位置が根尖側方向へ移動し、歯根表面が露出した状態。歯周炎の進行、加齢的原因、誤ったブラッシングによる機械的刺激などによって生じる。また、重度歯周炎に対する歯周治療後にも生じやすく、臨床的に問題と
なる。歯根表面が露出すると、齲蝕、摩耗、象牙質知覚過敏が生じることがある。

5.評価に当たって留意すべき事項
(1)製品の品質管理 ①最終製品の性状
本製品は間葉系組織より採取された細胞を培養し、硬組織形成能を持つ間葉系幹細胞を含む前駆細胞から構成される培養細胞群である。個々の細胞は位相差顕微鏡にて線維芽細胞様を呈することを確認する。例えば、歯根膜、骨膜、骨髄、脂肪組織由来等の接着細胞、もしくはこれらの細胞と支持体(フィブリンやコラーゲンゲル等)を組み合わせたものが考えられその際の最終製品としての移植体の物性や性状を確認する。
②細胞数および生存率
回収した細胞シートを酵素処理し、細胞数ならびに生存率(トリパンブルー染色陰性率など)を算出する。*1
③確認試験
目的とする体内での有効性(骨やセメント質等の硬組織形成能、ならびに歯根膜形成能など)を達成し、かつ安全性上の問題(意図しない分化、過形成、異常増殖など)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安全性を保持するために必要な、最終製品中の細胞の特性解析指標を定め、これらを用いて最終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。細胞特性解析指標としては、形態学的評価、表現系特異的マーカー、核型、細胞増殖特性、多分化能などが挙げられ、品質評価に有用と考えられる指標について、試験方法・判断基準を設定すること。なお、歯周組織を再生するための細胞群は、硬組織や靱帯様組織を再生しうる前駆細胞であることが望ましい。細胞表面抗原としてはいわゆる間葉系幹細胞のマーカーといわれる CD29、CD44、CD90、CD105 陽性、CD14、CD34、CD45 陰性を示す。ただし、硬組織誘導能の無い線維芽細胞でも同様の表現系を示すため、歯周組織を再生しうる細胞特異的な表面マーカーとは言い難い。これらの細胞表面抗原をいくつか組み合わせることにより、間葉系由来の細胞を表現する指標とはなりうるが、有効性と関連する遺伝子発現などを別途確認する。*2 細胞を分化させて用いる場合には分化誘導の指標を設定し確認する。
④細胞の純度試験
混入細胞(たとえば歯肉線維芽細胞、血管内皮細胞等やその他の採取時に混入する可能性のある細胞)、未分化細胞または脱分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目的細胞以外の細胞の検出及びその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定する。*2 ③に記載した間葉系幹細胞マーカーや、細胞を分化させて用いる場合には分化誘導の指標を用いて移植する細胞純度を確認する。
⑤非細胞材料および最終製品の生体適合性
歯周組織の再生では三次元的な組織再生を最終目的としているため、細胞と支持体(たとえばコラーゲン、リン酸カルシウム、フィブリンなど)の組み合わせを用いることが多く、このような最終製品の一部を構成するものについては生体適合性を評価する必要がある。必要に応じて規格を設定し、支持体が目的とする機能を有することを評価し、安全性(例えば、感染症や異物反応等)について説明する必要がある。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993-1、JIS T 0993-1、または
ASTM F 748-04 等を参考にすること。
⑥効能試験
歯周組織再生を目的とした細胞・組織加工医療機器の最終製品の有効性を評価するためには、組織学的検討や生化学的検討を行う必要がある。未分化な細胞を移植する場合には生体内で移植した細胞が目的とする組織の再生に有効であることを確認するための試験を実施する。分化させた細胞を移植する場合には、例えば硬組織関連遺伝子の発現や、歯根膜特異的なマーカー遺伝子の発現などを確認する必要がある。*3

(2)非臨床試験
非臨床試験としては主に大型動物(ブタ・サルが用いられる場合もあるが主にイヌ)が用いられる。欠損モデルとしては骨内欠損モデル(1壁性、2壁性、3壁性)、分岐部モデル(Ⅱ度、Ⅲ度)、水平性クリティカルディフェクトモデルなどの様々な欠損モデルが用いられている。実験的欠損を切削器具などで作製し、その際に炎症を惹起させるマテリアルを欠損部に充填させることにより意図的な炎症モデルを作成することも可能である。少なくとも上記のいずれかのモデルにおいて歯周組織治療用細胞シートの有効性を示す必要がある。有効性の評価はX線的ならびに組織学的に、歯槽骨・歯根膜・セメント質の形態計測等により行う。安全性に関する情報も可能な限り収集する。(3)臨床試験(治験)
①対象疾患
歯周組織破壊を伴う歯周疾患で、歯周外科手術の適応となる歯周炎を有する患者を対象とする。
②対象部位の選択
歯周基本治療後の再評価時に、アタッチメントロスが残存し、X線写真で歯槽骨欠損が認められる部位が目安であるが、歯槽骨の骨吸収度(垂直性・水平性、進行度)や骨欠損の深さを勘案して判断する。
③観察・測定項目
米国歯周病学会のコンセンサスレポートなどを参考にする。歯周組織再生療法の目標は歯周組織付着器官を再生させることであり、臨床的には、骨欠損がどれだけ新生骨で満たされたか、あるいは、臨床的アタッチメントの獲得がどれだけ認められたかを評価する必要がある。ただし、通常行われる組織付着療法においても上皮性付着を含む臨床的アタッチメントの獲得が認められるため、歯槽骨レベルの改善を主要な評価項目に設定して対照群と比較することが推奨される。
a) 有効性
・ 規格化撮影された歯科用 X 線写真:
歯槽骨の計測には、歯槽骨頂のレベルや骨内欠損の深さの測定が含まれる。骨レベルの改善は、新生した骨レベルの実測値、あるいは治療前の骨欠損の深さの何パーセントが改善したかで、骨欠損の深さの変化を数値で表す等によって評価する。
・ 規格化した臨床的アタッチメントレベル:
臨床的アタッチメントレベルの測定は、ステント等を用いて規格化するとともに、プロービング圧の統一化などについて測定器具の選定や測定者のトレーニングを実施することが推奨される。
・ 歯周検査(プロービングデプス、プロービング時の歯肉出血、歯肉炎指数、歯の動揺度、プラーク指数、プラークコントロールレコード、角化歯肉幅など):治療前の歯肉炎症の程度、プロービングデプス、歯肉退縮量、プロービング時の出血および動揺度等は、治療後の臨床評価に影響を与える可能性があるため、治療群間の不均衡を確認する目的で、治療前後の情報を入手すべきである。また、臨床的アタッチメントの獲得量は、治療前のプロービングデプスの値に依存していることを十分に認識して臨床試験計画を策案すべきである。また、評価しようとする再生療法が歯肉退縮を抑制できる可能性がある場合には、歯肉退縮も評価項目に設定することを考慮する。
b) 安全性全身状態の所見、口腔内所見、自覚症状の有無を確認する。また、治療後の歯周組織に、炎症、感染、過形成、過増殖などの異常所見がないか確認する。
④観察期間
設定時期は治療方法により異なるが、歯槽骨の骨レベルの変化がX線写真上で確認できるなど、治療方法の有用性が見られる時期を適切に設定すること。たとえば、治療前(ベースライン)と治療6か月以後に観察することが望ましい。
⑤臨床評価について
臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、当該治療法に期待される臨床上の位置付け等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。できる限り独立行政法人医薬品医療機器総合機構の薬事戦略相談又は対面助言を利用すること。

6.参考情報
Appendix
*1例えば細胞外基質が豊富であり通法での細胞数や細胞生存率の測定が困難な場合は、組織学的な評価などの別の測定方法などを設定し、出荷基準を設定すること。
*2例えば歯根膜細胞シートの場合、歯肉線維芽細胞との選別と硬組織形成能を評価するためにアルカリフォスファターゼの FACS 試験を実施し、それに付け加え歯根膜組織特異的な遺伝子発現を確認するために PERIOSTIN (POSTN)遺伝子の発現を Real-time
PCR 法にて評価する。
例えば骨膜シートの場合、結合組織由来細胞との選別のために、骨芽細胞系細胞の特異的転写因子である OSTERIX (SP7)または RUNX2 や最終分化マーカーである
OSTEOCALCIN (BGLAP)などの発現を定量的 PCR 法にて評価する。また、硬組織形成能を評価するために、デキサメタゾンなどによる分化誘導処理によりアルカリフォスファターゼ活性の上昇および in vitro の石灰化を誘導できることを細胞組織化学的に評価する。
例えば脂肪組織由来細胞の場合、細胞の純度を高める処理の前後で、アルカリフォスファターゼ、RUNX2、PLAP1 などの mRNA 発現が上昇していることを Real-time PCR で確認する。
例えば骨髄由来細胞の場合、細胞数増幅後における線維芽細胞との比較において
MMP1、Adrenomedullin (ADM), Protein tyrosine kinase-7 (PTK7), Collagen type XV α1 chain (COLXVA1), tissue factor pathway inhibitor-2 (TFPI2), Neuroserpin (SERPINI1),
MHC-DR-α,-β などの遺伝子発現パターンを Real time PCR で確認する。
*3骨芽細胞関連遺伝子としては例えば OSTERIX (SP7), RUNX2, OSTEOCALCIN
(BGLAP)などが挙げられる。歯根膜関連遺伝子としては例えば PERIOSTIN (POSTN)や
PLAP1 などが挙げられる。

GL:付属資料

引用関連規格

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