1.はじめに
関節軟骨は荷重衝撃の緩衝や関節滑動性の獲得に重要な役割を担っているが、血行に乏しく難治性の組織である。一旦損傷すると十分に修復されることは無く、損傷部の放置は軟骨下骨病変を合併し二次性の関節症変化へと進展することも多い。変形性膝関節症の患者数について、自覚症状を有する者は約1,000万人、潜在的な患者(X線診断による患者数)は約3,000万人と推定され、本症による中高年者の日常生活動作(ADL)低下の問題は大きな社会問題となりつつある。従って有効な軟骨の治療法の開発は急務である。近年、軟骨組織を対象として再生医療的手法(軟骨細胞や軟骨細胞への分化能を有する間葉系幹細胞移植)を用いた新規治療法が研究されている。しかし、わが国においてこれらの革新的な医療機器の開発研究は盛んに行われているが、臨床応用への展開は諸外国に比べて遅れていると言える。その理由として次世代医療機器の臨床応用にあたり、明確な評価指標がないことが一因と考えられる。このような状況を踏まえ、関節軟骨再生について科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を適性かつ迅速に進めるために本評価指標を作成した。
ヒト由来の細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成20年2 月8日付け薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成20年9月12日付け薬食発第0912006 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているころである。本評価指標は、ヒト由来細胞・組織加工医薬品等のうち特に損傷関節軟骨等の治療を目的として軟骨に適用される、ヒト軟骨細胞加工医薬品若しくは医療機器(以下「ヒト軟骨細胞加工医薬品等」という。)又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品若しくは医療機器(以下「ヒト間葉系幹細胞加工医薬品等」という。)について、上述の基本的な技術要件に加えて留意すべき事項を示すものである。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、損傷関節軟骨等の治療を目的として適用されるヒト軟骨細胞加工医薬品等又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品等について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示したものである。現時点ではヒトES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞由来の製品及び異種細胞・組織由来の製品は本評価指標の対象とはしない。
なお、開発する製品が医療機器に該当するか判断し難い場合は、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室に相談すること。3.本評価指標の位置づけ
細胞・組織加工医薬品等の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩であることから、本評価指標が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。
従って、本評価指標は申請内容に関して拘束力を有するものではなく、個々の細胞・組織加工医薬品等についての試験の実施や評価に際しては、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及び国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
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