<<廃止>>関節軟骨再生

ガイドラインID 2010-HN-RE-011
発出年月日
発出番号 平成22年12月15日付薬食機発1215第1号
WG名
制度名
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
関節軟骨は荷重衝撃の緩衝や関節滑動性の獲得に重要な役割を担っているが、血行に乏しく難治性の組織である。一旦損傷すると十分に修復されることは無く、損傷部の放置は軟骨下骨病変を合併し二次性の関節症変化へと進展することも多い。変形性膝関節症の患者数について、自覚症状を有する者は約1,000万人、潜在的な患者(X線診断による患者数)は約3,000万人と推定され、本症による中高年者の日常生活動作(ADL)低下の問題は大きな社会問題となりつつある。従って有効な軟骨の治療法の開発は急務である。近年、軟骨組織を対象として再生医療的手法(軟骨細胞や軟骨細胞への分化能を有する間葉系幹細胞移植)を用いた新規治療法が研究されている。しかし、わが国においてこれらの革新的な医療機器の開発研究は盛んに行われているが、臨床応用への展開は諸外国に比べて遅れていると言える。その理由として次世代医療機器の臨床応用にあたり、明確な評価指標がないことが一因と考えられる。このような状況を踏まえ、関節軟骨再生について科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を適性かつ迅速に進めるために本評価指標を作成した。
ヒト由来の細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成20年2 月8日付け薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成20年9月12日付け薬食発第0912006 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているころである。本評価指標は、ヒト由来細胞・組織加工医薬品等のうち特に損傷関節軟骨等の治療を目的として軟骨に適用される、ヒト軟骨細胞加工医薬品若しくは医療機器(以下「ヒト軟骨細胞加工医薬品等」という。)又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品若しくは医療機器(以下「ヒト間葉系幹細胞加工医薬品等」という。)について、上述の基本的な技術要件に加えて留意すべき事項を示すものである。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、損傷関節軟骨等の治療を目的として適用されるヒト軟骨細胞加工医薬品等又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品等について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示したものである。現時点ではヒトES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞由来の製品及び異種細胞・組織由来の製品は本評価指標の対象とはしない。
なお、開発する製品が医療機器に該当するか判断し難い場合は、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室に相談すること。3.本評価指標の位置づけ
細胞・組織加工医薬品等の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩であることから、本評価指標が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。
従って、本評価指標は申請内容に関して拘束力を有するものではなく、個々の細胞・組織加工医薬品等についての試験の実施や評価に際しては、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及び国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.用語の定義
本評価指標における用語の定義は、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及びヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 軟骨細胞:軟骨の細胞外基質中に存在し、主にコラーゲン(II、IX、XI型等)とプロテオグリカン(アグリカンを主とする)を分泌し軟骨基質を形成することを特徴とする細胞を一般的には指すが、本評価指標で原材料とする細胞はその前駆細胞(軟骨芽細胞)、軟骨細胞ないし軟骨芽細胞を豊富に含む細胞集団及び体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
(2) 間葉系幹細胞:間葉系組織中に存在し、多分化能を有しかつ自己複製能力を維持しているもの又はそれに類することが推定されるもの及びこれを豊富に含む細胞集団をいうが、本評価指標では骨髄間質細胞も含む。また、体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
(3) 粘弾性:粘性と弾性とを併せ持つ性質。軟骨組織の力学的特性において重要なファクターである。特に粘性は、歩行や運動といった時間的に変化する荷重に対して関節軟骨が応答する際に、重要な働きをする。
(4) 中間製品:製造の中間工程で造られたものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの。

5.評価にあたって留意すべき事項
損傷関節軟骨等の治療を目的とした細胞・組織加工医薬品等には、原材料と適用との関係性から、1) 原材料として採取されるドナーの細胞・組織が患者の適用部位の細胞・組織と同様の基本機能をもつ場合(相同使用 Homologous Use)と、2) そうでない場合(非相同使用 Non-homologous Use)とに分けられる。本評価指標においては昨今の国内外の研究開発状況を鑑み、前者の場合には主にヒト軟骨細胞加工医薬品等を、後者の場合には主に軟骨以外の組織に由来するヒト間葉系幹細胞を原材料とする細胞・組織加工医薬品等を対象とする。両者の安全性・有効性上の大きな差異として考えられるのは、前者の場合には適用部位における細胞組織の既知の生理学的機能からその有効性の機序を理解することが比較的容易と想定される可能性があるのに対し、後者の場合には移植段階で軟骨細胞様の表現型を呈さないこと及び有効性を裏付ける機序が複数である可能性があることに加えて、それらの確認が困難である可能性が考えられる。従って、間葉系幹細胞加工医薬品等と軟骨細胞の相同使用による軟骨細胞加工製品とでは、有効性の評価、その機序の理解及び製品中の細胞の適用部位における機能に基づくリスクの評価について留意点が異なる可能性があることに注意が必要である。
製品評価については、以下に挙げた試験項目が考えられる。しかしながら、製品によっては例示した試験項目又はマーカーが必要十分とは限らず、逆に不必要な場合もある。さらに必要かつ適切であれば、別の試験項目若しくはマーカーを採用又は追加して設定を検討し、使用する妥当性を説明すること。

(1) 細胞数及び生存率
出発原料となる軟骨細胞又は間葉系幹細胞は採取組織に由来する量的な制約がある。軟骨細胞は体外培養すると脱分化する傾向を持ち、また間葉系幹細胞も体外培養によりその表現型を変化させる傾向を持つ。いずれの体細胞種も、ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、体外での増殖にも限度があり、 終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。従って、意図する治療部位のサイズに見合った量の終製品を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、原材料又は中間製品中に存在する細胞の数及び生存率について判定基準を設定しておく必要がある。
また、 終製品における細胞の生存率についても基準を設定すること。

(2) 細胞の培養期間の妥当性
培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において脱分化ないし多分化能の減弱、もしくは増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適用後に体内での増殖及び分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。

(3) 確認試験
目的とする体内での有効性(軟骨形成能、軟骨機能等)を達成し、かつ安全性上の問題(意図しない分化、過形成、異常増殖等)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安定性を保持するために必要な 終製品中の細胞の重要細胞特性指標を定め、これらを用いて 終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。確認試験には目的細胞に対する特異性が求められるため、試験に用いる細胞特性指標は、混入する可能性のある他の細胞では発現していない分子であることが望ましい。組織工学的手法により製造された製品については、マトリックス中、スキャフォールド上等に播種されて製造された 終製品の細胞の生存率・密度・形態学的特徴等を確認すること。なお、 終製品の規格を も良く実現するために必要な、原材料及び中間製品の重要細胞特性指標を設定することも必要である。量的制約や複雑な品質特性のために、 終製品において細胞の特性を必要十分に評価できない場合は、中間製品(又は原材料)で評価することが選択肢となる場合もある。そのためには、中間製品(又は原材料)の特性が 終製品の品質に関する適正な道標となるという合理性を示すことが必要である。

(4) 細胞の純度試験
細胞の純度は品質管理における重要な要素であり、他の品質試験と同様、工程の性能、非臨床及び臨床試験結果等に基づき、規格を設定すべきものである。原材料、中間製品、 終製品の各段階における目的細胞については、確認試験で定めた重要細胞特性指標に基づいて定義すること。混入細胞(例えば骨芽細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、その他の採取時に混入する可能性のある細胞)又は原材料・製造工程における幹細胞の意図しない分化により生じた体細胞(様)細胞、未分化細胞又は脱分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目的細胞以外の細胞の検出及びその混入率の定量法、並びにその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定すること。

(5) 力学的適合試験
終製品の段階で軟骨組織と類似した力学特性を持つ等、 終製品の態様によっては 終製品自体に耐荷重性、摺動特性、粘弾性等における適合性が要求される。これらの製品については、各製品の適用方法を考慮した上で必要に応じて力学的適合性を確認するための規格を設定すること。

(6) 効能を裏付ける品質試験
軟骨再生を目的とした細胞・組織加工医薬品等の 終製品の有効性を担保するためには、 終製品に対する適切な効能試験の設定を検討する必要がある。例えば、終製品の段階で軟骨組織と類似した力学特性を持つことを期待する組織工学的手法により製造された製品の場合には、直接的に粘弾性特性等の力学的特性を測定することにより、製品の体内における効能を投与前に予測ないし評価することが可能かもしれない。
一方、組織工学的手法によらず軟骨組織とは類似しない力学特性を持つ製品については、体内における有効性の代替指標(Surrogate Marker)を同定し、効能試験に応用することが考えられる。例えば、タイプ II コラーゲン/タイプ I コラーゲンの遺伝子発現比は軟骨細胞の分化の指標とされることがある。ただし、代替指標の使用に際しては、患者における有効性と代替指標との相関性を予め明らかにすることが必要となる。適用後に体内での増殖及び分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。

(7) 製品の安定性試験
ヒト軟骨細胞加工医薬品等及びヒト間葉系幹細胞加工医薬品等の 終製品又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作により製品の解凍後の培養可能期間や品質への影響がないかを確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製品化後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、原材料・中間製品及び 終製品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順(容器、輸送液、温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。

(8) 非細胞材料及び 終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、細胞とともに 終製品の一部を構成するもの(マトリックス、医療材料、スキャフォールド、支持膜、ファイバー、ビーズ等)だけでなく、製造工程中で細胞と接触するもの及び適用時に使用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及び製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、 終製品総体についても患者の細胞組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、終製品の一部を構成する非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を提供すること。特に、生体吸収生材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施する
こと。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993-1、JIS T 0993-1又はASTM F
748-04等を参考にすること。

(9) 細胞の造腫瘍性・過形成
製品中の細胞に由来する腫瘤は適用部位における物理的障害となる恐れがあること、宿主の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。
試験により造腫瘍性を評価する方法としては、例えば核型分析、軟寒天コロニー形成試験、免疫不全動物における腫瘍形成能試験等が挙げられる。また、既定の培養期間を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、形態的特徴だけでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
間葉系幹細胞等、軟骨細胞へと分化しうる細胞又は分化した軟骨細胞を含んだ細胞・組織加工医薬品等の造腫瘍性については、複数の試験法による評価の必要性を検討すること。核型分析、免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、それぞれ An International System for Human Cytogenic Nomenclature (ISCN2005)、
WHO Expert Committee on Biological Standardization. Forty-seventh Report
(1998)等を参考にすることが考えられるが、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生じている場合があるので,染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、あるいは培養に起因するのかを明らかにできるような試験計画の立案を検討すること。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する原材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もあるかもしれない。

6.効力又は性能を裏付ける試験について
一次薬力学試験(Primary Pharmacodynamics / Proof-of-Concept Study)として、ヒト軟骨細胞加工医薬品等又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品等の機能発現、作用持続性及び医薬品等として期待される臨床効果の実現可能性(Proof of Concept)を示すこと。また、適当な動物由来細胞・組織製品モデル又は関節疾患モデルがある場合には、それを用いて治療効果を検討すること。治療効果の評価方法には例えば ICRS スコア、O’Driscollスコア、Wakitaniスコア等を利用することが考えられるが、妥当性については検討を行うこと。

7.体内動態について
いかなる細胞・組織加工医薬品等においても製品に由来する細胞が意図しない生体内分布を示すかどうかは安全上の懸念となる。従って、ヒト軟骨細胞加工医薬品等又はヒト間葉系幹細胞加工医薬品等を構成する細胞・組織についても、技術的に可能で科学的合理性のある範囲で、実験動物での分布、吸収、遊走、生着等の体内動態に関
する試験を実施すること。試験を実施しない場合には、その妥当性を示すこと。

8.臨床試験(治験)
臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、対象疾患、目的とする効能及び効果、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。必要に応じて、医薬品医療機器総合機構の対面助言を利用すること。

GL:付属資料

引用関連規格

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WG終了年月

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製品開発状況

Horizon Scanning Report