鼻軟骨再生

ガイドラインID 2015-HN-RE-023
発出年月日
発出番号 平成27年9月25日付薬食機参発0925第1号
WG名
制度名
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
再生医療等製品のうち、ヒト細胞加工製品の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成 20 年 2 月 8 日付け薬食発第 0208003 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成 20 年 9 月 12 日付け薬食発第 0912006 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。本評価指標は、ヒト細胞加工製品のうち特に口唇口蓋裂の鼻変形のうち、隆鼻術及び鼻尖形成が必要な高度な変形の治療を目的として適用される、ヒト耳介軟骨細胞加工製品について、上述の基本的な技術要件に加えて当該製品特有の留意すべき事項を示すものである。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、口唇口蓋裂の鼻変形のうち、隆鼻術及び鼻尖形成が必要な高度な変形の治療を目的として適用されるヒト耳介軟骨細胞加工製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。

3.本評価指標の位置づけ
ヒト細胞加工製品の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩であることから、本評価指標が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。
したがって、本評価指標は製造販売承認申請内容に関して拘束力を有するものではなく、個々の細胞・組織加工製品についての試験の実施や評価に際しては、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及び国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.用語の定義本評価指標における用語の定義は、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及びヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 耳介軟骨細胞:耳介軟骨を構成する軟骨細胞。II 型コラーゲンやプロテオグリカンのほか、弾性線維等の弾性軟骨に特徴的な細胞外基質を分泌する。
(2) 足場素材:製品の形態付与、細胞の保持及び機能促進のために使用される基材。
(3) 力学的特性:軟骨組織は、粘性と弾性とを併せ持つ粘弾性、圧縮応力に対応する圧縮強度、せん断応力に対応するせん断強度等の力学的特性を有する。
(4) 中間製品:製造の中間工程で造られたものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの。

5.評価にあたって留意すべき事項
本評価指標は、ヒト耳介軟骨組織を原料として製造所に受け入れ、これを製造所において加工して製造されたヒト耳介軟骨細胞加工製品として鼻部に適用することを想定している。
(1) 原料等
ヒト耳介軟骨組織の加工において使用する生物由来の原料等については「生物由来原料基準」(平成 15 年厚生労働省告示 210 号)及び「生物由来原料基準の運用について」(平成 26 年 10 月 2 日付け薬食審査発 1002 第 1 号厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食機参発 1002 第 5 号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知)をはじめとする関連法令及び通知を遵守すること。
① 軟骨組織の採取
軟骨組織の採取部位の選定理由、採取方法を示し、これらが科学的及び倫理的に適切に選定されたものであることを明らかにすること。採取方法については、用いられる器具、微生物汚染防止、取り違えやクロスコンタミネーション防止のための方策等を具体的に示すこと。
② 軟骨組織以外の生物由来の原料等
軟骨組織以外の生物由来の原料等については、その使用量を必要最小限とすること。特に、ウイルス不活化及び除去に関する情報を十分に評価する必要があるほか、遡及調査等を確保する方策についても明らかにすること。
③ 非細胞原料等足場素材等として使用される非細胞材料(アテロコラーゲンハイドロゲルやポリ乳酸多孔体等)については生体適合性を評価する必要がある。必要に応じて規格を設定し、足場素材が目的とする機能を有することを評価し、安全性(例えば、感染症や異物反応等)について説明する必要がある。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993-1、JIS T 0993-1、または ASTM F 748-04 等を参考にすること。また、生体吸収性材料については、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。

なお、必要な試験等については、平成 24 年3月1日付け薬食機発 0301 第 20 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」等を参照し、試験結果及び当該原材料を使用することの妥当性を示すこと。文献からの知見、情報を合理的に活用すること。

(2) 製造工程において特に注意が必要な事項
ヒト耳介軟骨細胞加工製品(最終製品)の製造にあたっては、製造方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を以下の項目で検証し、一定の品質を保持すること。
原料となるヒト耳介軟骨組織の製造所への受入れから、軟骨細胞の分離・培養工程を経て、足場素材に投与してできる最終製品に至る製造方法の概要を示すとともに、具体的な処理内容及び必要な工程管理、品質管理の内容を明らかにすること。
① 受入検査 原料となるヒト耳介軟骨組織について、製造所への受入れのための試験検査の項目(例えば、目視検査、顕微鏡検査、生存率、細胞の特性解析、細菌、真菌、ウイルス等の混入の否定等)と各項目の判定基準を設定すること。表現型、遺伝形質、特有の機能等の特性、細胞生存率及び品質に影響を及ぼさない範囲で、必要かつ可能な場合は細菌、真菌及びウイルス等を不活化又は除去する処理を行うこと。
なお、技術的な理由により、一部の工程を進めた上で検査を行うことが適切な場合にあっては、受入れ後の適切な時点で検査を実施すること。治験を開始する前段階の場合は、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。
② 最終製品の構成要素となる細胞の作製
製造所に受け入れたヒト耳介軟骨組織から最終製品の構成要素となる軟骨細胞を作製する方法(細胞の分離・培養方法、培地、培養条件、培養期間、収率等)を明確にし、可能な範囲でその妥当性を明らかにすること。培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において脱分化又は増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適切な細胞指標として核型分析が用いられることが考えられるが、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生じている場合があるので,染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、あるいは培養に起因するのかを明らかにできるような試験計画の立案を検討すること。適用後に体内での増殖及び分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
③ 製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーション防止対策
ヒト耳介軟骨細胞加工製品(最終製品)の製造に当たっては、製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーションの防止が重要であり、工程管理における防止対策を明らかにすること。

(3) 製品の品質管理
品質規格の値の設定について、治験を開始する前段階にあっては、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。なお、出荷製品そのもの又はその一部に対して規格試験の実施が技術的に困難である場合にあっては、妥当性を示した上で並行して製造した製品を用いて規格試験を実施すること。
① 細胞数および生存率
ヒト耳介軟骨組織から得られる軟骨細胞は量的な制約がある。軟骨細胞は体外培養すると脱分化する傾向を持つ。ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、体外での増殖にも限度があり、最終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。したがって、ヒト耳介軟骨細胞加工製品(最終製品)を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、原料又は中間製品中に存在する細胞の数及び生存率について判定基準を設定しておく必要がある。また、最終製品における細胞の生存率についても基準を設定すること。
② 確認試験
品質規格としては、軟骨細胞マーカーが発現していることを確認すること。軟骨細胞マーカーとして、例えば II 型コラーゲン、アグリカン、SOX9、 MIA、GFAP 等が知られている。ELISA 等による細胞培地上清に分泌された
MIA 及び GFAP 量の測定なども考えられる。
③ 純度試験
軟骨細胞マーカーの抗体を用いた免疫染色により判断する。または、軟骨細胞マーカーの一定レベルの発現量を確認する。混入細胞(たとえば線維芽細胞、血球細胞等)、または脱分化細胞、異常増殖細胞といった目的細胞以外の細胞の検出(例えば、軟寒天コロニー形成試験等)及びその安全性を確認する試験方法及び判定基準を設定する。
④ 力学的適合性試験
粘弾性特性あるいは曲げ強度等の力学的検討を行い、あらかじめ規定した力学特性を持つことを確認する。

(4) 非臨床安全性試験(細胞の造腫瘍性・過形成)
製品中の細胞に由来する腫瘤は適用部位における物理的障害となる恐れがあること、宿主の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。試験により造腫瘍性を評価する方法としては、例えば、免疫不全動物における腫瘍形成能試験等が挙げられる。また、既定の培養期間を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、必要に応じて形態的特徴だけでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、 World Health Organization (WHO) Technical Report Series No. 978 Annex 3(WHO TRS No.878 Annex 1 の更新版)等を参考にすることが考えられるが、上述の WHO ガイドラインは細胞を投与する製品の評価について論じたものではないため、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もある事を考慮すること。

(5) 最終製品の効力又は性能を裏付ける試験
ヒト耳介軟骨細胞加工製品(最終製品)のコンセプトに応じて検討すること。例えば、製品のコンセプトとして口唇口蓋裂の鼻変形の治療を目的に製品の持続的な形状維持や生着を目指すのであれば、最終製品をヌードラット等に移植し、移植後に、移植部位に留まり補綴材として維持されること、最終製品に含まれる軟骨細胞が、移植後軟骨基質を分泌すること等を確認することも考えられる。

(6) 臨床試験(治験)
① 対象疾患
口唇口蓋裂の鼻変形のうち、隆鼻術及び鼻尖形成が必要な高度な変形をもつ患者。
② 観察・測定項目 a) 有効性
ヒト耳介軟骨細胞加工製品の移植目的と機能を勘案し、適切な有効性評価指標を設定し、有効性を判定するのが好ましい。評価方法に関しては、レーザー計測装置や 3 次元 CT などを用いた 3 次元評価、MRI 撮影による定性的評価、顔貌写真による顔面及び鼻口部分についての外観評価、評価ツールを用いた顔面の整容的満足度の評価、評価ツールを用いた全身的な満足度の評価、日常生活動作に関するアンケートなどが考えられる。
b) 安全性
全身所見、局所所見、自覚症状の有無を確認する。また、移植後、移植周囲に炎症、感染、過形成、過増殖などの異常所見がないか確認する。
③ 観察期間
先行論文や実験データを基に、移植物が形態的にも機能的にも安定すると思われる期間を設定し、その期間を参考にして、観察期間をきめる。吸収性素材を足場素材として使用する場合には、足場素材が吸収されるまで観察するのが理想的であるが、吸収期間が非常に長いなどの理由で、完全に吸収されたことを証明することが困難な場合は、足場素材の影響が少なくなったことを説明できる状況まで観察し、その後の経過も追跡することが望ましい。
④ 臨床評価について
臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、当該治療法に期待される臨床上の位置付け等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。できる限り独立行政法人医薬品医療機器総合機構の薬事戦略相談又は対面助言を利用すること。

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