4.評価にあたって留意すべき事項
(1)基本的事項
機器の特性、すなわち、コイルに流れる電流(時間的変化、向きを含む。)と生成される磁束の時間的変化、生成される磁場の3次元的形状等を明らかにすること。
(2)リスクマネジメント
原則的に総論に準じて行う。
(3)非臨床試験
1)Invitro評価
生成される磁場の頭部での3次元分布をコンピュータシミュレーションにより示すことが望ましい。
2)Invivo評価すでに多数例で安全に臨床使用が行われている機器と同等の電気的・磁気
的特性を持つ装置であることを示し、さらに適用する刺激条件((4)-3)-①参照)の妥当性・安全性が既存の文献に基づいて証明できる場合は、動物試験を省略してもよい。この特性は接続するコイルにより異なること、有害事象の発生は刺激条件で異なることに留意する。
(4)臨床試験(治験)
1)医療機器の臨床試験の実施基準(医療機器GCP)の遵守
原則的に総論に準じて行う。
2)評価原則的に総論に準じて行う。
3)治験計画書
①基本的事項治験を実施するときの対照としてシャム刺激(偽刺激)を用いるが、この方法には2種類ある。コイルを垂直に立てる等して頭蓋内に電流が誘導されないようにする簡便な方法と、刺激の出ないコイルを頭皮に密着させるとともに刺激音を出すためのコイルを頭部近傍に置き、さらに実刺激と同様の感覚を被験者に与えるために頭皮を電気刺激するrealisticsham刺激がある。刺激条件として、以下の事項を明らかにする。
・刺激強度とその設定方法(運動閾値を基準として、その何%の刺激で行うかを決めることが多い。この場合、閾値の決定方法も明らかにする。)
・刺激部位とその同定方法
・コイルの置き方、固定方法
・刺激頻度(frequency)
・刺激時間(trainduration):連続的に行う一連の刺激時間
・各trainの間隔(時間):1trainのみであれば不要
・以上を1セッションとして、1日のセッション数
・複数の部位で刺激する場合は、その順序や各部位の刺激条件
・週の適用日数、継続する週数等
②治験対象
rTMSは脳血管障害(片麻痺)、不随意運動症(パーキンソン病、ジストニア)、難治性疼痛、難治性てんかん、薬物治療抵抗性うつ病等の通常の治療で十分な効果が得られない神経・精神疾患が適応となる。
③使用目的と適応条件患者の脳を反復して磁気刺激することで、脳の興奮性を変化させ、症状の軽減を図ることが目的である。rTMS単独だけでなく、rTMSにリハビリテーション訓練等を組み合わせることで十分な治療効果が得られる場合も想定される。
口以外の頭部に金属を持つ者、心臓ペースメーカー装着者、薬物治療ポンプ留置者には禁忌である。また、主幹動脈閉塞による脳梗塞、頭部外傷後、脳腫瘍、てんかん患者(既往も含む。)ではけいれん発作誘発に十分注意し、適宜脳波検査を行うことが望ましい。妊婦、乳幼児についてはrTMSによる明確な恩恵がある場合に限り考慮される。
④症例数と実施期間
a)症例数
原則的に総論に準じて行う。
b)期間即時(適応中あるいは直後)に効果が発現する場合、ある期間の継続的使用で効果が発現する場合等、効果発現時期はさまざまであると考えられる。目的とする治療効果に応じて適切な期間を定めること。従来の報告ではrTMSの短期的な効果をみたものが主であり、長期間の連用による影響は不明なことが多いことに留意する。このため承認後の継続調査が必要になることがある。
⑤エンドポイント設定
a)安全性
有害事象としてはけいれん発作の誘発が最も重要である。世界で少なくとも16例でけいれん発作誘発が確認されている。高頻度刺激やTBSではより誘発されやすいとされている。安全と考えられる刺激条件が提言されており、その一部をあげると、運動閾値の90%及び100%の刺激強度では1Hz刺激で1800秒、5Hzで10秒、10Hzで5秒、20Hzで2.05秒、25Hzで1.28秒であるが、130%の刺激強度では1Hzで50秒、5Hzで10秒、10Hzで2.9秒、20Hzで0.55秒、25Hzで0.24秒と安全な刺激時間が短縮する。また、日本臨床神経生理学会脳刺激法に関する委員会からは1週間に計5000回の刺激を上限とすることが提言されている(2007年11月)。なお、これらのガイドラインを遵守してもけいれん発作が誘発される可能性は皆無ではないことに留意する。
その他の有害事象としては、コイルから発生する音による聴力障害、失神、局所の痛み・頭痛・不快感、認知機能・神経心理学的機能の変化等が知られている。
b)有効性
主要エンドポイント
広く用いられている客観性のある評価方法が望ましい。現時点で使用されることが多いものを以下に挙げる。(他の評価方法の使用を制限するものではない。)
【脳血管障害】麻痺側手指運動機能(タッピング等)、標準失語症検査、行動性無視検査
【不随意運動症】パーキンソン病統一スケール(UPDRS)、書字機能
【疼痛】疼痛尺度、マギル疼痛質問票
【てんかん】臨床症状としての発作回数、脳波でのスパイクの出現回数
【うつ病】Montgomery-AsbergDepressionRatingScale(MADRS),HamiltonDepressionRatingScale(HAMD)
rTMSの効果は多岐にわたる可能性があり、運動障害の指標と精神障害の指標等主要エンドポイントが複数となる場合がある。
副次エンドポイント
ADLの指標として、Barthel指数又はFIM(Functionalindependencemeasure)が頻用される。QOLの指標としてはSF-36(ShortForm36)日本語版Ⓡ、日本語版EuroQOL等がある。ただしこれらの評価法で症状による生活の困難さを的確に表わすことができない場合は、必要に応じて他の評価法を用いたり、アンケートを作成したりしてもよい。
⑥実施医療機関けいれん発作等の有害事象発生時に救急対応が可能な施設において治験を実施する。
⑦治験データの取得方法原則的に総論に準じて行う。
⑧試験中の有害事象が生じた時の対応原則的に総論に準じて行う。
⑨安全性評価原則的に総論に準じて行う。
⑩最終評価
rTMSは単なる機能の改善(例えば麻痺の改善)だけでなく、ADLやQOLの改善にむすびつくものでなければならない。rTMSを受けるための時間的・身体的・精神的負荷や有害事象の発生等を考慮して、最終的な有用性を判断しなければならない。
<H3>OtherRequirements</H3>
5.試験結果の報告(構成内容)
原則的に総論に準じて行う |