1.はじめに
本邦の脊椎脊髄外科は過去約 50 年において、先人の努力により独創性と有効性の高い手術手技や治療法が数多く開発され、進歩してきた。特に過去 20 年においては、耐久性や生体親和性の高い脊椎インプラントが開発され、不安定性脊椎疾患に対する脊椎前方及び後方固定術との併用により強固な固定が得られ、早期離床や良好な骨癒合の獲得を可能にした。これらの手術手技は国内外の優れたインプラントの開発及び基礎・臨床研究の功績とともに更なる進歩を遂げ、本邦の医療及び国民の生活の質の向上に貢献してきた。
一方、脊椎前方及び後方固定術は生体の持つ脊椎可動性等の生理機能を破綻させるため、術後の体幹可動域制限、疼痛、隣接椎間病変等の問題も数多く指摘されてきた。1990 年代からはこれらの問題の解消を目的に、脊椎に可動性を持たせる新たなインプラントが欧米中心に開発された。その代表的インプラントが人工椎間板であり、頚椎人工椎間板は現在多くの諸外国で臨床応用され、良好な治療成績が報告されている。その一方で、腰椎人工椎間板は欧州で開発され 2004 年に米国 FDA の承認を得て臨床応用されたが、術後のインプラント脱転や破損、血管損傷、再手術等の報告が相次ぎ、今日ではほとんど実用されなくなった。これらの経緯を踏まえ、その後、欧米では変性した椎間板の広範囲な切除を実施せずに腰椎制動が獲得できる新たな後方制動インプラントが数多く開発され、現在臨床試験が実施されている。これらの可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントは臨床試験中であるものが多いが、慎重かつ適切な適応選択により、良好な治療成績が期待され、患者、医療の発展、医療費削減において有益である可能性がある。
本評価指標においては、次世代脊椎インプラントの中で可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントのうち、特に、①頚椎人工椎間板、②腰椎後方制動システム、③腰椎人工椎間関節における品質、有効性及び安全性に関する必要事項及び製造販売承認申請に際し留意すべき事項を定めた。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、脊椎に使用され、椎間に加わる荷重の支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントのうち、頸椎人工椎間板、腰椎後方制動システム及び腰椎人工椎間関節を対象とする。本評価指標において、頸椎人工椎間板とは、椎間板を置換し、椎間に加わる荷重の支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントであって、頸椎に対して使用するものとする。腰椎後方制動システムとは、後方より腰椎を安定化するインプラントであって、椎間に加わる荷重を支持と椎間の可動性の維持を目的とするものとする。腰椎人工椎間関節とは、椎間関節を置換し、椎間に加わる荷重を支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントであって、腰椎に対して使用するものとする。
可動性を維持する機構としては、摺動によるものや、材料のコンプライアンスを利用したもの等がある。開発する医療機器が本評価指標の対象に該当するか判断が難しい場合には、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局医療機器・再生等医療製品審査管理室に相談すること。
3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい脊椎インプラントを対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
本評価指標が対象とする可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントの評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
また、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
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