1.はじめに
今後の骨関節疾患治療は、高齢化社会と密接に関わっている。総務省統計局は、平成 25 年9月 15 日に我が国の高齢者動向を報告し、65 歳以上(高齢者)の人口が、3186 万人、総人口に対する割合が 25.0%を初めて超えたことが明らかとなった(総務省統計局、統計トピックス No.72)。現在、我が国は、平均寿命、高齢化率及び高齢化のスピードという三点において、世界一の超高齢社会となっている。これに伴い、整形外科の日常診療においても、運動器障害を伴う変形性関節症や骨粗鬆症が増加しており、大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折も急増している。関節障害や骨折手術・変形矯正手術の治療に用いられる人工関節・骨接合用材料等の骨・関節インプラントの高機能化を図り、治療技術を向上させることは、今後高齢化社会を迎えるに当たり重要と考えられる。
従来の人工股関節、人工膝関節等、生体内埋め込み型の整形外科用インプラントは、その有効性及び安全性が認められ、術後 10~20 年間の耐久性が示され、整形外科医療及び国民の生活の質向上に貢献してきた。しかし、現在のインプラントの問題点の一つに、平均骨格形状に基づいた設計による画一的なサイズのみの提供となっているため、形状不一致による骨格形状への不適合が存在することが挙げられている。また、骨腫瘍症例における広範切除術後に生じる骨欠損や、インプラント再置換術の際の骨欠損に対する再建術が困難な症例も存在する。これらを解決する一つの手段として、形状のカスタムメイド化が考えられている。
従来の薬事法に基づく承認を取得している整形外科用インプラントの一般的な製造方法は、製品形状のデザイン・設計、鋳造・鍛造用の金型作製、精密鋳造・鍛造、表面加工等の過程を経ている。一方、インクジェットプリンター造形、電子ビーム積層造形、レーザー積層造形、光造形等の革新的な諸技術の開発により、少量(単品)かつ短期間にカスタムメイドインプラントを作成することが可能となってきた。したがって、これら革新的な三次元積層技術により製造された整形外科用インプラントの品質、有効性及び安全性を適切かつ迅速に評価を行うことが望まれている。そこで、今後開発されることが予想される三次元積層技術による新規整形外科用インプラント(骨関節インプラント及び手術支援ガイド)の迅速な上市に資するよう、当該技術に関する新たな評価指標を作成した。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、整形外科用インプラントを製造する際の「三次元積層技術」全般を対象とするものであるが、他の医療機器を製造する際に同じ技術を用いた場合にも、その技術に対して本評価指標を適用することを妨げるものではない。ただし、本評価指標は、既存品と類似のインプラントを三次元積層技術によって製造する場合を主な対象とする。
3.本評価指標の位置付け
本評価指標は、技術革新の著しい分野であり近年特にその医療機器製造技術への応用について着目されてきている「三次元積層技術(付加製造(AM:Additive Manufacturing)技術)」を対象とすることを踏まえ、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂するものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
実際に「三次元積層技術」を用いて製造された整形外科用インプラントの評価に関しては、個別の製造方法及び製品特性を十分に理解した上で、科学的な合理性を持って、柔軟に対応することが必要である。また、本評価指標以外に現存する国内外の関連ガイドライン等を参考にすることも必要である。なお、製品個別の特性が、現存するガイドライン等で評価できるか否か、十分に検討すべきであることに留意されたい。
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