1. はじめに
総務省統計局は、2014 年 9 月 15 日に我が国の高齢者動向を報告し、65 歳以上(高齢者)の人口が 3296 万人、総人口に対する割合が 25.9%に達していることを報告した(総務省統計局、統計トピックス No.84)。我が国の高齢化は、今後も加速されることが推測されている。このような状況で、我が国では運動器障害(変形性関節症、骨粗鬆症に伴う大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折)が増加の一途をたどっており、関節障害、骨折、変形矯正等の治療に用いられる人工関節・骨接合用材料等の骨・関節インプラントといった整形外科インプラントの高機能化を図り、治療技術を向上させることが急務である。
従来の整形外科インプラントは、その安全性、有効性が認められ、術後 10~ 20 年間の耐久性が示され、整形外科医療及び健康寿命の延伸に貢献してきた。しかし、現在のインプラントの問題点として、平均骨格形状に基づいた設計による画一的なサイズのみの提供となっているため、形状不一致による骨格形状への不適合が存在することが挙げられる。このため、長期経過例では、骨折や人工関節のゆるみ、折損等の合併症をきたし、再置換術を必要とする場合がある。また、骨腫瘍症例における広範切除術後に生じる骨欠損やインプラント再置換術の際の骨欠損に対しては、既存のインプラントによる再建術が困難な症例も存在する。このような背景の中、国民のさらなる健康寿命の延伸、QOL の向上を目指すには、30 年以上の耐久性を有する超長寿命型インプラントの開発が強く望まれる。これを解決する一つの手段として、形状のカスタムメイド化が考えられてきた。
近年、革新的な諸技術の開発により、電子ビーム積層造形、レーザー積層造形、インクジェットプリンター造形等の三次元積層造形技術を用い、少量(単品)かつ短期間にカスタムメイドの整形外科用インプラントを作製することが可能となってきた。これに伴い、これらの三次元積層造形技術により製造される骨関節インプラントや手術支援ガイドの安全性と有効性を適切かつ迅速に評価を行うために、新しい審査基準が必要となっている。三次元積層技術により製造された整形外科用インプラントの安全性、有効性の評価における留意点については、平成 26 年 9 月に三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標(平成 26 年 9 月 12 日付け薬食機参発 0912 第 2 号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知 別紙 3)(以下、「参事官通知」という。)により示したところであるが、本評価指標では、三次元積層造形技術による製造にあたって、患者の画像データから三次元骨形状等を再現する際の留意事項をまとめた。
2. 本評価指標の対象
本評価指標は、基礎となる既製品に対して患者個々の骨形状にあわせて必要となる形状変更等を行い、特定患者への生体適合性、固定性等を向上させることを目的とした、三次元積層造形技術によるカスタムメイド整形外科用インプラント及び手術支援ガイド(以下、「カスタムメイド整形外科用インプラント等」という。)を対象とし、患者の画像データを利用して、三次元形状(骨または軟骨を含む関節形状)を再現する際の設計等における留意事項を示すものである。 なお、切削加工等の三次元積層造形技術と異なる製造技術により製造するカスタムメイド整形外科用インプラント等であっても、患者の画像データから再構築した三次元形状を利用するのであれば、本評価指標を参考とすることで差し支えない。
3. 本評価指標の位置付け
近年、その医療機器製造への応用について着目されてきている三次元積層造形技術(付加製造(AM : Additive Manufacturing)技術)により、複雑な形状をもつ医療機器が多種少量であっても製造可能となったことを勘案し、本評価指標は、患者固有の骨画像データを基に患者個々の骨・軟骨形状に合わせたカスタムメイド整形外科用インプラント等を設計、製造する際に考えられる問題点、評価・留意すべき事項を示すものである。技術革新の著しい分野であることから、留意点等を網羅的に示したものではなく、現時点で考えうる点について示したものである。よって、今後の技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂するものであり、薬事申請内容等に関して拘束力を有するものではない。本評価指標で想定される機能とは異なる内容を含むと考えられる新規技術の薬事申請を検討する場合には、事前に医薬品医療機器総合機構に相談することが望ましい。 三次元積層造形技術等を用いて製造するカスタムメイド整形外科用インプラント等の評価に関しては、個別の製造方法及び製品特性を十分に理解した上で、科学的な合理性を持って柔軟に対応することが必要であり、また、本評価指標以外に現存する国内外の関連ガイドライン等を参考にすることも必要である。よって、製品個別の特性について、現存するガイドライン等で評価できるか否かを十分に検討すべきことに留意されたい。なお、三次元積層造形技術による整形外科用インプラント等の評価に関しては、参事官通知を、カスタムメイド整形外科用インプラント等の評価に関しては、以下の評価指標をあわせて参考にすること。
・ 平成 22 年 12 月 15 日付け薬食機発 1215 第 1 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「次世代医療機器評価指標の公表について」別添 3「整形外科用骨接合材料カスタムメイドインプラントに関する評価指標」
・ 平成 23 年 12 月 7 日付け薬食機発 1207 第 1 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「次世代医療機器評価指標の公表について」別添 2「整形外科用カスタムメイド人工股関節に関する評価指標」
・ 平成 24 年 11 月 20 日付け薬食機発 1120 第 5 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「次世代医療機器評価指標の公表について」別添 1「整形外科用カスタムメイド人工膝関節に関する評価指標」
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